森田松太郎著『企業数字を読む』という書籍を紹介する。 人間が健康状態に関心があり人間ドックに行くように、会社にも健康診断が必要です。人間の健康状態は存外顔に出ます。人間の顔は不思議なもので表情がありますし、体の不調も表れます。喜怒哀楽は顔の表情に表れますし、表情の奥に隠された健康上の秘密も伺えます。一方、決算書を見れば、会社の顔の表情を見ることができます。会社の決算書、例えば、貸借対照表、損益計算書を見ることによって会社の表情、体力、頭脳などついて知ることができます(8頁参照)。この森田松太郎氏著の『

森田松太郎著『企業数字を読む』という書籍を紹介する。


人間が健康状態に関心があり人間ドックに行くように、会社にも健康診断が必要です。人間の健康状態は存外顔に出ます。人間の顔は不思議なもので表情がありますし、体の不調も表れます。喜怒哀楽は顔の表情に表れますし、表情の奥に隠された健康上の秘密も伺えます。一方、決算書を見れば、会社の顔の表情を見ることができます。会社の決算書、例えば、貸借対照表損益計算書を見ることによって会社の表情、体力、頭脳などついて知ることができます(8頁参照)。この森田松太郎氏著の『企業数字を読む』という書籍は、会社の決算書を見て、会社の健康状態を知ろうという書籍で、要は「経営分析」の入門書です。


会社の三要素は、人、物、金であり、この三つの要素がよい評価を受け、バランスの取れている会社がよい会社とされています。会社の人、物、金は人間で言えばいわば基礎体力です。この三要素が充実し、かつバランスが取れていなければ到底よい会社とは言えません。会社の基礎体力は、会社の決算書を見れば、それぞれ数字で表されています。会社の体型は自己資本比率・固定比率・流動比率などにより、会社の栄養状態は総資本や売上の利益率により、また活力(血液の循環状態)は資産の回転率によって知ることができます。これらの基礎体力の上に会社の頭脳・生命力を調べれば、会社のおよその健康状態は判断できるのです。会社を人に例えれば人、物、金のうち人は会社の頭脳であり神経です。人の中でも特に経営者は頭脳にあたります。経営者を頭脳にすれば従業員は神経とも言えます。人間において頭脳が大切なように会社においても人、特に経営者の判断は重要です(12頁参照)。会社の経営は年に一回の決算に反映されます。決算時に作成し発表される決算書は、一年間の会社の成果、結果を公開するもので、いわば会社の成績簿、通知簿です。一年間の経営の成果が決算書に示されているので、経営者の能力、従業員の能力、すなわち会社の頭脳と神経は、この決算書によって評価されます(14頁参照)。


会社の人、物、金のうち、人が頭脳であれば、物は体です。人は物と金を動かして会社に利益をもたらすのです。物は会社の体を作ります。健全な精神は健全な体に宿ると言われますが、会社も同様に体がよくなければよい精神は宿りません。人間には、普通の体の人を中心に痩せ型の筋肉質、肥り型の肥満体があります。過度の筋肉質、肥満体は健康によくありません。いざという時に頑張りがききません。会社においても同様の現象が見られます。会社の物は資産という形を取ります。物には有形も物と無形の物があります。物の典型は土地・建物・機械・車輛・商品・製品です。これらの物は形を持っており、目で物であることが識別できます。このように五感で感じることのできる物を有形資産と言います。一方、五感で感じられない資産もあります。特許権、電気ガス施設利用権のような権利です(16頁参照)。これを無形資産と言います。物としては目に見えないが資産としての価値があります。会計では物を全て資産とは考えません。例えば、ボールペン、消しゴム、事務用紙その他事務用の消耗品は物に違いありません。私達は、目で見ることもできるし、ボールペンの存在を手で触って確認できます。しかし、これらの金額的に少額の物は、物理的に物であることに変わりはありませんが、会計上は費用として扱い、資産としません。有形の物であっても会計上資産とならないものはたくさんあります。このような物を簿外資産と言います。会社の物については一定のバランスが必要です。多すぎず、少なすぎずがよいのです。このバランスの測定が経営分析の大きな目的です。会社にも物について、売上と資本の間に一定の関係があります(18頁参照)。


人が会社の頭脳、物が会社の体であれば、金は会社の血液です。血液が人の体内を循環し栄養分を補給するように、金は会社の中を循環し事業を促進します。血液の流れがスムーズに行われれば健康体、そして鬱血が病気の原因になるように、金の流れの滞り、鬱血状態は会社の資金繰りを悪化させます。人の体の大量出血は、生命に危険を及ぼします。会社の場合も同じような現象が見られます。血液は循環し、絶えず新陳代謝により清浄化しなければ病気になります。会社の血液である資金も、絶えず正常に循環していなければなりません(19頁参照)。また、人間は食物をとらないと生きていけないように、会社にも食物は必要です。会社の食物は利益です。会社は利益を食べて生きています。会社の体力は欠損を続けている間に次第に低下します。栄養を利益でとらずに、借入金という輸血に頼っているようでは正常な活動に限界があり、体力低下を免れません。会社は自前で食物をとり、健康を維持し体力を増進してはじめて社会的に認知されます。人・物・金と食物の関係は会社を見る場合の大きなポイントです(21頁参照)。


森田松太郎氏著の『企業数字を読む』という書籍では、「会社の体型をみる(25参照)」、「会社の栄養状態をみる(65頁参照)」、「会社に活力があるか(105頁参照)」、「会社の頭脳は冴えているか(137頁参照)」、「会社の生命力をみる(171頁参照)」という視点から会社の健康状態を経営分析によって診断することを勧めています。全ての指標を記載することはできませんが、一例として、資金状態の安全性をみる上でのバロメーターを挙げてみます。会社にとって資金が十分にあることは必要で、「勘定合って銭足らず」と言われるように、例え利益が出ていても、一時的にせよ資金が不足する場合があります。資金と血液は同じような作用をするので、血液不足が生命の維持に不可欠なように、資金不足は会社を倒産させることがあります。黒字倒産と言われる現象です。会社の支払資金の状態を見るのが「流動比率」です。資金の状態は会社の安全性をみる上のバロメーターであるので、流動比率は会社の安全性をみる比率として知られています。流動比率は一年以内の支払予定の流動負債に対し、一年以内に回収できる資産はどのぐらいあるかを知る比率です。計算式は「流動比率=(流動資産÷流動負債)×100」です。流動資産と流動負債はバランスシート(貸借対照表)でみるように、一年以内に支払ったり回収したりする資産と負債です。すなわち一年以内の資産が一年以内の負債よりも多ければ、当然のことですが資金的に安定しているとみるわけです(51頁参照)。


バランスシートには限界があります。バランスシートは会社の実態を反映していないかといえばそうではなく、一定の条件の下に会社の実態を表しています。問題はバランスシートの表現力には一定の限界があるということを知らなければならないということです。バランスシートの顔は一つではなく、普段の顔の奥に別の見方による顔があります。会社の実態を知るには普段の顔の奥にある、もう一つの顔があることを意識することが、どうしても必要です。会社のバランスシートには、どうしても埋められることのできない限界があることを知ることが大切なのです(220頁参照)。


会社の貸借対照表損益計算書などが無機質な計算書のように思っていた方でも、こういう風に数字を加工することによって会社の一面が見られることを知ると、貸借対照表損益計算書を見るのが楽しくなると思います。