鈴木竹雄著『新版・会社法・全訂第三版』という書籍を紹介する。 会社法に携わっていて鈴木竹雄氏を知らない人はいないというほど、鈴木竹雄氏は有名な方です。私が尊敬する法学者のひとりです。鈴木竹雄氏著の『新版・会社法・全訂第三版』という書籍は会社法の教科書です。会社法は平成17年に改正され、独立していますので、平成3年に出版された鈴木竹雄氏著の『新版・会社法・全訂第三版』は、条文としては齟齬があります。故に、商法の変遷について述べていこうと思います。 日本における総ての業種に適用される一般会社法が、明治

鈴木竹雄著『新版・会社法・全訂第三版』という書籍を紹介する。


会社法に携わっていて鈴木竹雄氏を知らない人はいないというほど、鈴木竹雄氏は有名な方です。私が尊敬する法学者のひとりです。鈴木竹雄氏著の『新版・会社法・全訂第三版』という書籍は会社法の教科書です。会社法は平成17年に改正され、独立していますので、平成3年に出版された鈴木竹雄氏著の『新版・会社法・全訂第三版』は、条文としては齟齬があります。故に、商法の変遷について述べていこうと思います。


日本における総ての業種に適用される一般会社法が、明治23年の旧商法典によって制定されました。この法典は、ドイツ人のヘルマン・ロエスラー氏によって作成され、その第一編第六章が会社法でした。明治32年に旧商法典に代わって新商法典が施行されましたが、その第二編が会社法でした。内容的にも相当整備されたものとなりました(『日本の会社法河本一郎・岸田雅雄・森田章・川口恭弘共著 37頁参照)。ドイツ人の起草で始った日本の商法は、第二次世界大戦後、昭和25年にアメリカの制度を広汎に取り入れた大改正が実現しました。ドイツは大陸法系であり、アメリカは英米法系です。第二次世界大戦後、日本は、大陸法系と英米法系が混在する独自の商法を施行することになるのです。昭和25年改正には、①会社の資金調達の便宜をはかり、授権資本および無額面株式の制度を採用しました。②会社の運営機構を合理化して、株主総会・取締役および監査役のあり方に重大な変更を加えました。株主総会の権限を縮小して、原則として法定の事項に限り(しかも法定の事項として新株発行・社債募集等の決定を総会の権限から外した)、もしそれ以外の事項をも総会の権限に留保しようと思えば、その旨を定款に規定することを要するものとしました。意思決定の機関として取締役会という会議体を新設するとともに、執行および代表にあたる機関として代表取締役の選任を強制し、このように二分することによって、総会から委譲された広汎な事項を取締役の合議により決定させることとし、それとともに執行自体にあたる機関を有効に監督できるようにしました。監査役の権限は会計監査のみに限局しました。③株主の地位を強化し、一方において株主の共益権を拡大強化するとともに、他方においてその投資者としての利益をいっそう保護しました(37頁参照)。


昭和49年改正には、監査制度改善のため、監査役の権限を拡張して昭和25年の改正前と同様業務全般の監査権を認めるとともに、その地位を強化し、ことに決算監査の充実を期しました。そのうえ別に商法特例法を制定しました。一方、資本金5億円以上の会社については、公認会計士または監査法人を会計監査人に選任して決算監査をいっそう充実したものにするとともに、他方、資本金1億円以下の小会社については、監査役の権限を改正前と同様のものにとどめることにしました。昭和56年の改正は大改正でした。①大会社に関し、商法特例法によってはじめられた監査の強化をさらに進める改正を行い、資本金5億円以上または負債合計200億円以上の会社を大会社として会計監査人の監査対象会社を拡大するとともに、複数監査役・常勤監査役の制度を設け、「大会社の監査報告書に関する規則」を定めました。また、株主総会の実情に鑑み、大会社では計算書類につき会計監査人および監査役の適法意見が与えられた時は総会の承認を要しないこととした他、株主数が1000人以上の大会社では参考書類の送付・書面投票を行わせることとし、「大会社の株主総会の招集通知に添付すべき参考書類等に関する規則」を定めました。②株主に関し、会社設立時における出資単位を額面株式・無額面株式を問わず5万円以上としました。③機関に関し、株主総会についてはその活性化をはかるため、積極的には株主提案権、取締役・監査役の説明義務、議長の権限、書面投票制度などを法定し、消極的には総会屋に対する利益供与の禁止、総会の運営についての検査役の制度を法定しました。決議取消・不存在・無効の訴えの制度を整備しました。取締役会についてはその決議事項を明確にするとともに、議事録の閲覧に制限を加えるなどの措置を講じて、合議制による監督機能強化を期しました。監査については、監査役の使用人・会計監査人に対する報告請求権、取締役会招集権を定めた他、大会社では複数監査役・常勤監査役の制度を定めて監査体制の強化をはかり、また、監査役の報酬を取締役と区別して定めることとし、監査費用を確保した他、大会社では会計監査人の選任権限を取締役会から株主総会に移すなど、監査役・会計監査人の独立性を高めました。④計算・公開に関し、多くの改正が行われました(39頁参照)。


平成5年改正では、①株主権の権限強化。株主代表訴訟の要件緩和がはかられました。②監査役制度の改善。監査役の任期の延長(二年→三年)、員数の増員(二人以上→三人以上)、社外監査役の設置、監査役会の法定化がなされました(『平成五年改正会社法の解説』元木伸著 10頁参照)。平成17年改正では、①株式会社と有限会社を一つの会社類型(株式会社)として統合するとともに、設立時の出資額規制(最低資本金制度)を撤廃し、新たに合同会社制度を設立しました。②組織再編行為(合併、分割等)にかかわる規制を見直しました。取締役の責任に関する規定の見直しとして、委員会設置会社と、それ以外の会社の取締役の責任に関する規定の調整が行われました(『ゼミナール・会社法入門・第6版』岸田雅雄著 16頁参照)。③公開会社と非公開会社の区別にしました。④大会社と中小会社の区別にしました。⑤委員会設置会社とそれ以外の会社に区別しました(『ゼミナール・会社法入門・第6版』岸田雅雄著 20頁参照)。


法学においては条文を覚えることが大切なのではなく、その条文に関する解釈、つまり法解釈の方がより大切です。取締役は善管注意義務に加え忠実義務も負っています(『会社経営者の過失』近藤光男著 18頁参照)。この二つの義務の関係をどのように解釈すべきかについては学説が対立しています。①善管注意義務と忠実義務を同質の義務と解する説。取締役に課せられる善管注意義務と忠実義務とは、法文の表現は異なるが内容的には同じものであるとしています。すなわち会社と取締役との法律関係は委任関係であるから、取締役に課せられる一般的な義務は善管注意義務のみで、この義務は特定の人の注意力を基準とするものではなく、通常の知識と経験を有する者が、委任事務を処理するのに当たって用うるべき注意を基準とするもので、取締役が会社の業務を執行する場合に用うべき注意もこれと同一のものです。忠実義務に関する規定は、昭和25年商法改正によって取締役の権限を拡大したことに照応して、取締役たる者は善管注意義務を持って会社の業務を執行すべき義務を課せられていることを銘記せよというもので、強いて言えば、民法の抽象的な善管注意義務を株式会社法的に具体的に表現したものに過ぎないとしています。②善管注意義務と忠実義務を異質の義務と解する説。この説は、会社法に規定する忠実義務は、英米法上の忠実義務の観念を導入したもので、会社と取締役との委任関係によって課せられる善管注意義務とは淵源を異にし、性格も異なる義務で、会社と取締役との間に存在する信任的法律関係に由来する義務であるとします。信任的法律関係とは、他人の為に継続的かつ包括的に事務処理をする者と、その他人との間に認められる関係で、信認と信頼がその基礎にあります。


善管注意義務と忠実義務を異質の義務と解する説における忠実義務は、取締役が会社の利益を犠牲にして自己の個人的利益を図ってはならない義務であるから、競業避止義務ならびに自己取引・利益相反取引の禁止に関する義務は、本質的には忠実義務に包括されるものでありますが、会社に損害を与える危険性が特に多い取引なので、取締役にこれらの義務の課せられていることを銘記せしめるために規定を設けたものです。ちなみに、最高裁では昭和45年6月26日に①の説を判決しています(『ジュリスト増刊・商法の争点<第二版>83年10月30日発行』 北沢正啓編 118頁参照)。


法律で一番難解なのは法解釈です。法律をどう解釈するかが問題となります。法には、制定法という成文法と判例法、慣習法、条理という不文法の法源があります(『法学入門(第三版)』末川博編 57頁参照)。古くは、鎌倉幕府の第三代執権の北条泰時が制定した御成敗式目も先例と道理(慣習や道徳)に基づき成文化しました(『詳説・日本史・昭和56年3月5日発行』井上、笠原、児玉共著 93頁参照)。成文法である制定法に併せ、世の常識や慣例や習慣が判決には大きな影響を及ぼしています。その中で、法律をどう解釈するかが難しいのではないかと思います。また、法律を語る時、法と現実の乖離が問題になりますが、立法府の見識がその差異を埋めて行っていただけるものと考えております。