細田末吉氏著の『監査役監査の実務Q&A』という書籍を紹介する。 会社の監査には三様監査というのがあります。それは公認会計士(または監査法人)監査、内部監査、監査役監査です(2頁参照)。監査役監査はその三様監査のうちのひとつです。では、なぜ監査役監査が必要なのでしょうか。大概の会社は発足当初、規模も小さく、所有者と経営者が一緒なのが普通です。それが会社が成長し、事業規模が大きくなると、資金調達の面から多くの株主から資金を調達する必要性が発生します。また、経営環境が複雑化してくると、所有者も経営のプロを雇

細田末吉氏著の『監査役監査の実務Q&A』という書籍を紹介する。


会社の監査には三様監査というのがあります。それは公認会計士(または監査法人)監査、内部監査、監査役監査です(2頁参照)。監査役監査はその三様監査のうちのひとつです。では、なぜ監査役監査が必要なのでしょうか。大概の会社は発足当初、規模も小さく、所有者と経営者が一緒なのが普通です。それが会社が成長し、事業規模が大きくなると、資金調達の面から多くの株主から資金を調達する必要性が発生します。また、経営環境が複雑化してくると、所有者も経営のプロを雇って会社を任せる方が得策だと考えるようになります。これがバーリ氏&ミーンズ氏のいう「所有と経営の分離」です。会社(=所有者である株主)は経営のプロである取締役と委任契約を結び、経営を任せています(会社法第330条)。しかし、経営技術が複雑化すると、素人である株主が経営者の日常の経営をチェックするのが困難になります。そこで、会社は監査役と委任契約を結び、取締役の経営をチェックさせ、会社に報告させるようになったのです(会社法第330条)。監査役監査は、会社法第381条「監査役は、取締役の職務の執行を監査する。この場合において、監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない」という条文によって法定化されています。


昭和49年の商法改正で、商法第274条、現・会社法第381条に「監査役は、取締役の職務の執行を監査する」と規定され、監査役監査は、従来の会計監査に加えて業務監査がその対象とされたことから、監査役監査が適法性監査に限定されるのか、妥当性監査にも及ぶのかが問題とされ論争を生むことになりました。しかし、この論争は華やかな割りには、実質的な差はそれほどなく、実務上はあまり大きな問題だとは思われませんが、監査役監査が取締役の業務執行の適法性のみを対象にするのか、それとも妥当性(合目的性)にも及ぶかについては、おおよそ次の三つの見解があります。①監査役監査は、適法性監査に限られるが、取締役の「著しく不当」な業務執行は、善管注意義務に違反し、結局は法令違反になるので、適法性監査の範囲に含まれます。②原則として違法性の監査が中心ですが、取締役の業務執行が「著しく不当(誰がみても不当なもの)」な場合にそれを指摘する限度では妥当性の監査に及びます。③監査役監査は、妥当性の監査に及ぶが、それは、「経営政策的または能率増進を目的とするもので、積極的に一定の営業活動または生産活動をなすべしとの前向きのもの」ではなく、「不当な点がないかどうかを明らかにします」「消極的かつ防止的な意見の表明に制限されます」。以上のように、いずれの説を採っても、監査役としては当否の判断を必要とすることは明らかであり、この判断のプロセスとそれに基づく意見の表明に関して若干のニュアンスの相違があるにすぎず、実務上の問題は、監査役の監査、特に業務監査の実施過程(期中監査)において、どのような考え方に基づいて監査を実施し、意見を表明すべきかという行動基準の設定にあると考えられます。細田末吉氏は、要するに監査役は、その業務監査のプロセスにおいては、適法性のみではなく、常に妥当性の判断を念頭において実施することが適当なのだと述べています。取締役会その他重要会議への出席とか決裁書類の閲覧、主要事業所への往査の場合においても、適法性のみではなく、妥当性の問題についても自らの判断を下すことが必要だと思われます。勿論、積極的に意見を表明するのは、不当事項の防止を必要とする場合に限定し、それをこえる問題については、意見を求められた時等に限定されるものと考えるべきです(46頁参照)。


細田末吉氏は実際に企業の監査役に就任し、監査役監査を実践した方です。『監査役監査の実務Q&A』という書籍は、細田末吉氏の経験と勉学によって書かれた書籍です。