辻敢・脇田良一共著『ビジネス・ゼミナール・決算書入門』という書籍を紹介する。 社会は動的な秩序の中で成り立っています。社会生活の中で進化していくには、その秩序(法則性)を理解(発見)できる能力が必要となります。会計にも様々な規則があります。例えば財務諸表。科目の並び方に順序があります。流動資産と流動負債が、固定資産と固定負債よりも前に記載されてあります。さらに、流動資産の区分の中でも、現金に始まり、預金と受取手形のように現金とほぼ同じように取り扱われるもの、それから売掛金や有価証券のように直ちに

辻敢・脇田良一共著『ビジネス・ゼミナール・決算書入門』という書籍を紹介する。


 


社会は動的な秩序の中で成り立っています。社会生活の中で進化していくには、その秩序(法則性)を理解(発見)できる能力が必要となります。会計にも様々な規則があります。例えば財務諸表。科目の並び方に順序があります。流動資産と流動負債が、固定資産と固定負債よりも前に記載されてあります。さらに、流動資産の区分の中でも、現金に始まり、預金と受取手形のように現金とほぼ同じように取り扱われるもの、それから売掛金や有価証券のように直ちに現金となるもの、そして商品・製品のような販売目的のもの、というように換金の容易なもの、現金に近いものから順次記載されます。流動負債の区分の中でも同じことが言えます。支払もしくは返済期日が早く到来するものから順次記載されています。このように換金の容易なものは、「流動性の高い資産」と言います。支払もしくは返済期日が早く到来するものは「流動性の高い負債」ということになります。とすると、流動性の高い資産がたくさんあって、流動性の高い負債が少ない会社ほど、会社の資金繰りは楽です。あくせく借金を返す自転車操業にならないからです。そのような会社は、財務流動性の高い健全な会社であると評価されます。このように貸借対照表から、その会社の資金繰りが楽であるかどうかを読み取ることは大切なことです。そこで、貸借対照表上、流動資産と流動負債が、固定資産と固定負債よりも前に記載してあり、しかも流動性の高い資産あるいは流動性の高い負債から順次記載されていると、その会社の資金繰り状況を読み取るに便利です。このような貸借対照表の記載の順序を「流動性配列法」と言います。流動性配列法は一般に広く採用されており、財務諸表規則は流動性配列法を採用しています。ただし、一部の固定資産が巨額にのぼる会社、例えば電力会社とかガス会社などでは、固定資産と固定負債から順次記載しています。これを「固定性配列法」を言います(127頁参照)。


 では、どこで流動と固定を区別するのでしょうか?これにもルールがあります。流動・固定の区分の基準としては、一般に二つあります。①正常営業循環基準、②1年基準です。この二つを使い分けて流動と固定の区分をしています。おおまかに会社の営業活動サイクルを描くと、まず、会社の営業は現金・預金に始まります。そして、原材料あるいは商品を仕入れます。即金で支払うこともあるでしょうが、多くの場合、掛仕入れであり(買掛金)、手形により支払います(支払手形)。ついで、原材料を製造工程に投入し、加工して製品を作ります。完成した製品は販売を持って商品とともに貯蔵されます。製品と商品は代金を引き換えに、あるいは掛けで販売されます(売掛金)。掛代金は手形で支払われます(受取手形)。受取手形代金を回収し、支払手形代金を決済することによって、営業活動は次にサイクルに入っていきます。このようなサイクルを営業循環と言っています。この営業循環に着目して、資産と負債の流動・固定を区分しようとするのが、正常営業循環基準です。正常営業循環基準とは、営業循環の中にある資産と負債は、流動資産と流動負債であるとするのです。そして、この営業循環を支える土台となる資産、例えば、土地・建物・工場・機械装置・備品などは固定資産ということになります。つまり会社が営業活動において、長期間使用する目的で保有する資産は固定資産ということになります。しかし、正常営業循環基準で、全ての資産と負債の流動・固定を区分することはできません。そこで登場するのが1年基準、ワン・イヤー・ルールです。正常営業循環基準で流動・固定を区分できない資産と負債、特に債権と債務について1年基準を判断の基準とします。貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に回収されるか、支払もしくは返済しなければならない債権と債務は、流動資産あるいは流動負債であるというのです。回収あるいは支払もしくは返済が一年を超える債権と債務は、固定資産であり固定負債です。なお、有価証券については、それが取引所上場有価証券であるか否か、一時所有か長期所有(子会社支配、相互持合、長期利殖など)かによって、流動・固定を区分しています。そのことから、所有目的基準の併用と言われることもあります(123頁参照)。


 無機質な決算書もこういうルールを知りながら見ると、楽しくなるものです。流動であるか固定であるかを見ることは、経営で重要なストック・アンド・フローについて考察する上で重要です。その重要な指標を考察できるように、会計のルールがサポートしているのです。私も社会のルールを把握し、社会との共生の中で相互進化していきたいと思います。