井出正介氏・高橋文郎氏共著の『ビジネス・ゼミナール・企業財務入門』という書籍を紹介する。 井出正介氏・高橋文郎氏共著の『ビジネス・ゼミナール・企業財務入門』という書籍は、自由市場を通ずる企業の価値創造活動、資本市場の役割、それを踏まえた企業の財務的な意思決定のフレームワークを詳細に説明した書籍です(2頁参照)。井出正介氏・高橋文郎氏共著の『ビジネス・ゼミナール・企業財務入門』という書籍の概要は、第一章に集約されています。第一章で基本的な概念を記載し、第二章以下で、その概念の細部を説明する構成になってい

井出正介氏・高橋文郎氏共著の『ビジネス・ゼミナール・企業財務入門』という書籍を紹介する。


井出正介氏・高橋文郎氏共著の『ビジネス・ゼミナール・企業財務入門』という書籍は、自由市場を通ずる企業の価値創造活動、資本市場の役割、それを踏まえた企業の財務的な意思決定のフレームワークを詳細に説明した書籍です(2頁参照)。井出正介氏・高橋文郎氏共著の『ビジネス・ゼミナール・企業財務入門』という書籍の概要は、第一章に集約されています。第一章で基本的な概念を記載し、第二章以下で、その概念の細部を説明する構成になっています。


資本主義市場型経済の下で事業を行う企業は、広い意味の市場型経済ルールに支配されることになります。市場型経済においては、消費、貯蓄、投資(実物投資)の決定が類型化されています。①発達した金融市場の存在からの決定、②来期の収入で今期の消費を拡大するケース、③今期の収入で来期の消費を拡大するケース、④実物投資機会の存在、⑤期初のうち、一部だけ実物投資を行い、残りを金融市場に放出し、または借り入れることにより、今・来期合計の消費を最大化する、⑥実物投資の水準が、その限界リターンが金利と等しくなる水準以上、あるいは以下になる場合には、いずれも総需要は最適な水準以下にとどまる、の6類型です(2頁参照)。金融市場メカニズムを通して経済資源が最適配分される原理が示されています。


自由市場を通ずる企業の価値創造のプロセスを示しています。企業は、負債資本とリスク資本または株主資本からなる、資本増殖のためのブラック・ボックスを経由します。発達した自由市場における企業の価値創造活動の一側面は、投資家から資本の運用を委託された企業の経営者が、市場から生産活動に必要なあらゆる経営資源を調達し、それに独自の付加価値を加え、再び製品を市場で販売して、投下資本を回収します。自由市場における競争では、競争相手より「良いものを安く」提供できる企業が勝ち残ることは言うまでもありません。しかし、十分に競争が行われている発達した市場では、単に市場から原材料や機械設備を購入して、平均的な付加価値活動を行っているだけでは、ほとんど利益を生み出すことが期待できません。企業は、他の企業が簡単に市場からお金で買えないような「ユニークな差別化要素」を創りだそうとします。以上が自由市場を通じる企業の価値創造活動の重要な側面ですが、全てではありません。ダンピングなど、良いものを安くというルールだけでは、望ましい価値創造を行っている企業が、必ずしも勝ち残って繁栄する保証は得られません。それだけではシステム全体として長期的に最適な資源配分が行われることにはなりません。


そこで、自由市場における競争ルールには、「金融・資本市場からの要求を満たす」というもう一つの重要な条件を備わっています。狭い意味の金融市場に加え、株主資本まで含む様々なタイプの資本が取引される市場を資本市場と呼ぶことにします。良いものを安く提供し、同時に、資本提供者が要求する最低リターンを上回る収益をあげた場合にのみ、企業が価値ある事業をしていると認められるのです。負債資本(D)の提供者は、その時の市場金利iとすると、最低1年後には、D×(1+i)にして返してくれれば、経営的に合格と認めてくれます。同様に株主資本Eの提供者は、市場全体としては最低1年後にはE×(1+r<実物資本の限界的なリターン>)にしてくれた企業は、経営的にうまくいっているとみなすのです。資本提供者が平均的に要求する最低のリターン(収益率)は、より専門的には資本コストと呼ばれます。具体的には、iは負債投資のコスト、rは株主資本(自己資本)のコストに相当します。発達した自由市場経済においては、資本も企業が必要に応じて市場から適正な対価を払って調達してくる点において、原材料や機械設備と何ら変わらないということです。企業の市場を通ずる価値創造活動は、期初に投入した資本(D+E)を、一期後にどれだけ増やしたかという、いわば「キャッシュ・フロー・サイクル」の中で捉えることになります(8頁参照)。証券取引市場によって株価が形成され、また国際格付機関などによって負債の価値が格付けされます(252頁参照)。市場が企業価値について採点しているのです。


資本市場の役割は、不特定多数の投資家がもっぱら投資の魅力度に従ってオープン・マーケットに資本を投入しつつ、同時にそれがシステム全体としても望ましい資本配分が達成されるというものです(13頁参照)。企業の財務的な意思決定のフレームワークについて。財務的意思決定プロセスの中で最も戦略的意思決定は、資本構成の決定、新規資本支出の決定です。次に、投資決定プロセス。三番目は配当政策です(17頁参照)。資本構成決定において考慮する点は、①収益性、②事業リスクの水準、③投資や資産の性格、④経営者のリスクに対する許容度、⑥社債の格付けなどの制度的要因、⑦機動的な資金調達の可能性の確保などです(165頁参照)。


第二章以下では、以上のことへの詳細な説明をしています。私が興味を惹いたのは、ボストン・コンサルティング・グループの製品ポートフォーリオ・マネジメントです。これは企業の持つ製品や事業をそれぞれ市場の成長性と相対的なマーケット・シェアの二つの軸を基に、①花形製品(高シェア、高成長)、②金のなる木(高シェア、低成長)、③問題児(低シェア、高成長)、④負け犬(低シェア、低成長)の四つの分ける考え方です。市場の成長性が高ければ、事業の資金需要(必要投資額)が大きくなり、市場における競争上の地位(相対的マーケット・シェア)が高ければ、事業からのキャッシュ・フロー(資金流入額)が大きくなると考えます。企業の取るべき戦略は、「金のなる木」が生み出した現金を「問題児」のうち見込みのある事業に投入して、相対的マーケット・シェアを高めて、「花形製品」に育てるか、研究開発に投資して直接「花形製品」を作り出すかになります(132頁参照)。このボストン・コンサルティング・グループの製品ポートフォーリオ・マネジメントは有名で、野中郁次郎氏著の『企業進化論』の52頁にも掲載されています。


資金調達は、直接金融、間接金融と分かれますが、社債にもハイ・クーポン債、ゼロ・クーポン債、デュアル・カレンシー債、ユーロ円債があり、広義のエクイティーファイナンスとして、普通債、転換社債ワラント債などがあります。資金調達の方法としての自己資本他人資本(負債)にも様々な手段があります(213頁参照)。


株主の立場と債権者の立場からでは、財務分析の視点が異なります。株主の立場からでは、株価、ROE(株主資本経常利益率)、総資本利益率などが重視され、債権者の立場からでは、レバレッジ比率、金利カバー比率、流動比率、固定比率などが重視されます(302頁参照)。この井出正介氏・高橋文郎氏共著の『ビジネス・ゼミナール・企業財務入門』はなかなか難解な書籍です。経理経験をして、さらに金融の業務に携わった方が読む上級者向けの書籍だと思います。


ちなみに、株価は投資家だけのものと考えている方も多いと思いますが、それは違います。年金の運用は株式などの有価証券で行われることが多く、株価が低いということは、将来の年金への支払能力に非常に大きく影響します。