高橋洋一著『この金融政策が日本経済を救う』という書籍を紹介する。 平成23年3月に高橋洋一著の『この金融政策が日本経済を救う』と大槻久志著の『金融化の災い』という二冊の書籍を購入しました。二つの書籍共、とても分かりやすく、内容も優れている名著なのですが、ひとつだけ私には同調できない部分がありました。それは、両書共、やたら政策批判、個人批判の記述が多いことです。私は無益な争いを好みません。故に、私が両書籍を読破したからと言って両先生が批判されていることと私の意見が必ずしも同じではないということを申し上げま

高橋洋一著『この金融政策が日本経済を救う』という書籍を紹介する。

平成23年3月に高橋洋一著の『この金融政策が日本経済を救う』と大槻久志著の『金融化の災い』という二冊の書籍を購入しました。二つの書籍共、とても分かりやすく、内容も優れている名著なのですが、ひとつだけ私には同調できない部分がありました。それは、両書共、やたら政策批判、個人批判の記述が多いことです。私は無益な争いを好みません。故に、私が両書籍を読破したからと言って両先生が批判されていることと私の意見が必ずしも同じではないということを申し上げます。政策批判、個人批判の部分が多いだけに誤解される前に申し上げた方が懸命だと思いました。ご理解下さいますようお願いいたします。私は純粋に日本の経済危機を救う方法を勉強したかっただけであり、その意味では、この両書はものすごく有意義な書籍でした。

『この金融政策が日本経済を救う』ではリフレを奨励していました。デフレは不況期に起きるもので、インフレ目標を設定し、デフレスパイラルからの脱却を目指します。現在の物価の状態を見るには、CPI(消費者物価指数)とユニット・レイバー・コスト(単位労働コスト)とGDPデフレーターの三つの指標を参考にします(81頁参照)。書籍では物価の状態と政策の関係を述べていました。デフレに関しては、グリーンスパン米連邦準備制度理事会FRB)前議長が平成20年10月23日に下院政府改革委員会の公聴会にて、低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)問題に端を発した金融危機について「過ちを犯した」と語った上で、日本型デフレを防ぐための超低金利策だったとデフレを回避するための金融政策であったことを証言しています(サンケイ新聞参照)。グリーンスパン氏はデフレを恐れていたのです。グリーンスパン氏もデフレが不況の元凶であることを認識していて、デフレへの恐怖があの政策を引き起こしたのです。現在の金融不安不況下もデフレ状態にあり、そのことが不況に結びついています。スタフグレーションではない、健全なインフレを誘発するリフレは妥当な政策だと思われます。インフレ目標を設定し、日本の経済を健全なインフレに導いてやらねばなりません。インフレ目標は、私の大好きなイギリス、ニュージランド、カナダ、スウェーデンフィンランド、オーストラリア、スペイン、韓国、チェコハンガリーなどで採用されている政策ですので、特殊な政策とは言えないようです(106頁参照)。物価の状態を判断する上で注意しなければならないのは、CPIの上方バイアスです。CPIには実態よりも統計数値が大きく出てしまう上方バイアスがあります。CPIについては、1%ほど、少なくとも0.5%割り引いてみなくてはなりません(85頁)。データから正確に実態を読み取ることが求められ、そのことが適時な政策に結びつきます。

現在の経済危機に対応するための三つの手段を挙げています。その三つは、大きく金融機関対策と実体経済対策の二つに分けることができます。金融機関対策のうちの一つ目は、リクイディティ(流動性)の供給を中央銀行が行うこと。金融機関対策の二つ目は、ソルベンシー(支払い能力)についてのもので、資本が不足する状況に対して、財務省が公的資本注入を行います。三番目が実体経済対策の話で、これは一番目の流動性供給に似ているかも知れませんが、金融緩和です。流動性供給というのは、資金供給が終わった後で資金を引き揚げます。金融緩和は引き揚げません。現FRB議長のバーナンキ氏は大恐慌研究の第一人者です。政府が国債を大量に発行しながら日銀が国債を大量に購入するという高橋是清氏が行った政策を高く評価していたそうです。この政策は大恐慌脱出の決定版といえる究極の政策で、バーナンキFRB議長は「マネー・ファナンシング」と呼んでいます(193頁参照)。日本も検討すべき政策のように思えます。

この『この金融政策が日本経済を救う』という書籍で面白かったのは、かの有名な「オズの魔法使い」という物語りがアメリカの金融政策から作られたという逸話です。「オズの魔法使い」の最初の刊行から20年前のことです。1880年から96年にかけて、アメリカでは物価が23%も下がりました。当時はアメリカを含む多くの国々が、貨幣制度として金本位制を採用していました。この強烈なデフレは、拡大するアメリカ経済に対して、金貨の供給が追いつかないことで発生したのでした。対策としては、金銀複本位制を採用して通貨の量を増やすしかありませんでした。金銀複本位制とは、通貨の裏付けとして、金だけでなく銀も用いる制度です。当然、金本位制に比べて通貨の発行量を増やすことができます。実際、1896年のアメリカの大統領選では、これが大きな争点になりました。共和党のマッケンジー候補は金本位制を、民主党のブライアン候補は金銀複本位制を主張したのです。今日的な分かりやすい言葉で言い換えれば、共和党はデフレ政策を、民主党はリフレ政策を主張したということです。「オズの魔法使い」の登場人物を見てみます。ます「オズ=Oz」は金の単位であるオンスの略号です。主人公のドロシーは伝統的なアメリカ人の価値観を表しています。カカシは農民、ブリキの木こりは産業資本、ライオンは民主党のブライアン候補です。最後にドロシーは、自分の家に帰る道を見つけるのですが、それは黄色い煉瓦道(金本位制)を単純にたどるものではありませんでした。自分の銀のスリッパ(金銀複本位制)の魔力でやっと帰ることができたのです。現実の話は、アラスカで金鉱が発見され、さらに南アフリカから金が持ち込まれたことにより、十分な通貨量になり、金本位制を維持することができました。つまり金本位制を維持したことがデフレ解消の原因ではなかったのです(45頁参照)。この書籍を読んで、通貨供給量が経済に与える影響力の大きさを学べました。