令和4年8月30日、ファラデー著・竹内敬人訳の『ロウソクの科学』を読破しました。2019年、吉野彰氏がノーベル化学賞を受賞した年、書店に「吉野彰さんを理科好きにさせた原点の一冊!」という帯が付いた『ロウソクの科学』という書籍が平積みに置かれていました。その帯の文言に惹かれ購入しましたが、仕事が本当に忙しく、土曜日、日曜日も自宅で仕事をし、仕事と疲労回復のための睡眠という生活を送っていたので、この本を読みたいと思っても読めずにいました。今回、時間を作って読破しました。 この『ロウソクの科学』は、英国の偉大

令和4年8月30日、ファラデー著・竹内敬人訳の『ロウソクの科学』を読破しました。2019年、吉野彰氏がノーベル化学賞を受賞した年、書店に「吉野彰さんを理科好きにさせた原点の一冊!」という帯が付いた『ロウソクの科学』という書籍が平積みに置かれていました。その帯の文言に惹かれ購入しましたが、仕事が本当に忙しく、土曜日、日曜日も自宅で仕事をし、仕事と疲労回復のための睡眠という生活を送っていたので、この本を読みたいと思っても読めずにいました。今回、時間を作って読破しました。

この『ロウソクの科学』は、英国の偉大な科学者であるファラデーの行った青少年のためのクリスマス講演の講義録です(21頁参照)。内容は実験の仕方を教えています。実験によって、水素、酸素、炭素、窒素などの元素を抽出したり、水や二酸化炭素などの化合物を生成しています。例えば、水素の抽出。水素をつくりたければ、亜鉛と、硫酸か塩酸が少々あれば簡単です。ここに用意したのは、昔、「賢者の燈」と呼ばれた装置です。ガラス管か、パイプを通したコルク栓をはめた薬びんです。薬びんの中に亜鉛と小片のうすい酸が入れてあります。気体が発生し、点火すると弱い炎を上げて燃えます(92頁参照)。その気体が水素です。そして、全ての化学反応を支配しているのが化学親和力です(174頁参照)。水素というと、最近、燃やしても水以外の排出物(粒子状物質二酸化炭素などの排ガス)を出さないことから、代替エネルギーとして期待されています。ロシアのウクライナ侵攻以来、エネルギーの逼迫が問題になっている日本の一助になって欲しいものです。

私は、エネルギー問題の解決策のひとつとして、大量の電気が蓄えられる蓄電池の発明が求められていると考えています。現在、その時々のエネルギー需要に対して、随時、発電する形で供給しています。もし大量の電力が貯蔵できれば、需要量が少ない時に電力を貯蓄して備え、需要量が逼迫しているような時には、貯蓄した電力で対応できれば、計画停電などという消費者に我慢を強いる手段を使わなくても済むはずです。吉野彰氏はリチウムイオン二次電池の開発でノーベル化学賞を受賞しました。国民生活に対応できるほどの大容量の充電と放電ができる蓄電池が発明されれば、エネルギー問題の多くを解決できると思われます。

一連の実験を終えた後、ファラデーは、ロウソクで起こる化学反応と人間が行う呼吸によって起こる化学反応との類似性を述べています(169頁参照)。ロウソクが炭素を燃やして火を灯すように、全ての温血動物は、遊離の状態ではなく、化合状態にある炭素を燃やして、体温を保っているのです。では、人体から排出された二酸化炭素はその後どうなるのか?二酸化炭素は、地球の表面に生育する植物にとっては、正に生命の源なのです。光合成を行い、私達が二酸化炭素の形で放出した炭素を取り込み、成長し、繁茂します(172頁参照)。お互いに依存しあった動物と植物の王国をつくっているのです。ファラデーは、人類と社会、自然との共生を述べました。最後に、ファラデーは、若い皆さんに伝えたいのは、「来るべき皆さんの時代において、ロウソクのようになってほしい。ロウソクのように光り輝いてほしい」と述べました。未来ある青少年の将来に期待して終わっています(176頁参照)。

ファラデー著・竹内敬人訳の『ロウソクの科学』に関しては、「訳注」、「ファラデー人と生涯」、「あとがき」まで読むことを勧めます。「訳注」では、電球の発見、世界最初の公共鉄道(リバプールマンチェスター鉄道)、ゴムの発見、消しゴムの発見、ソーダ水の普及、ニトロセルロースの発見などのたくさんの科学の歴史と知識が記載されています。「ファラデー人と生涯」では、決して裕福な家に生まれたわけではないファラデーの成功の軌跡が記載されています。たまたま欠員が出た幸運により王立研究所のディヴィーの後任の助手になり、運が開けていきました(206頁参照)。また、ファラデーの功績に関しても、1、電磁誘導の発見、2電気分解の法則の発見、3、物質の磁性の発見・磁気化学の創設、4ベンゼンの発見、5、ファラデー効果の発見、6、場の概念の導入、を挙げ、讃えています(232頁参照)。電磁誘導と聞くと、私は、MRIを想起してしまいます。さらに、ベンゼンと聞くと、学生時代に芳香族化合物を学んだ際、ベンゼンも習ったなと思い出しました。加えて、ファラデーは、英国で、旧20ポンド紙幣に描かれたほどの偉人であることも記載されています(225頁参照)。

ファラデーは、「教育の目的は、心を訓練して、前提から結論を導き、虚偽を見出し、不適切な一般化を正し、推論に際しての誤りが大きくなるのを食い止められるようにすることだ」と述べています(227頁参照)。ファラデーの教育への意識の高さが伺えます。「あとがき」において、訳者である竹内敬人氏は、現代における『ロウソクの科学』という書籍の使命は、科学の世界が生んだ最大の講演者、特に少年少女を含めた市民に対する講演者としてのファラデーの偉大さを改めて学び、今後の理科教育の生きた教材として活かすことである。科学の知識のソースではなく、科学的精神とは何かを少年少女に伝える材料としてである」と述べています(248頁参照)。