令和5年3月6日、村山斉著の『宇宙は何でできているのか』という書籍を読破した。 非常に面白い書籍でした。文章も分かりやすく、図や表がたくさん掲載され、イメージもしやすい良書でした。「宇宙はどう始まったのだろうか」「宇宙は何でできているのだろうか」「宇宙の運命はどうなるのだろうか」「宇宙を動かす仕組みとは」「この宇宙にどうして我々がいるのだろうか」といった深い疑問に科学がどうアプローチし、仮説を立て、検証してきたかという科学の歴史が記載されています(223頁参照)。 この村山斉著の『宇宙は何でできている

令和5年3月6日、村山斉著の『宇宙は何でできているのか』という書籍を読破した。

非常に面白い書籍でした。文章も分かりやすく、図や表がたくさん掲載され、イメージもしやすい良書でした。「宇宙はどう始まったのだろうか」「宇宙は何でできているのだろうか」「宇宙の運命はどうなるのだろうか」「宇宙を動かす仕組みとは」「この宇宙にどうして我々がいるのだろうか」といった深い疑問に科学がどうアプローチし、仮説を立て、検証してきたかという科学の歴史が記載されています(223頁参照)。

この村山斉著の『宇宙は何でできているのか』という書籍は、「ウロボロスの蛇(21頁参照)」、「宇宙の歴史(68頁参照)」、「原子の構造(91頁参照)」、素粒子標準模型(93頁参照)」、「物質間で働く4つの力(107頁参照)」、「統一の歴史(109頁参照)」という図や表を基本としています。この図や表を念頭に置いて読むと理解しやすいと思います。

宇宙の起源を知ろうと思ったら、素粒子のことを理解しなければいけません。逆に、大きな宇宙を調べることによって、小さな素粒子についてわかることもあります。自然界の両極端にあるように見えながら、この2つは切っても切れない関係にあるのです。ギリシャ神話に登場する「ウロボロスの蛇」をご存じですか。自分の尾を飲み込んでいる蛇のことで、古代ギリシャでは「世界の完全性」を表すシンボルとして描かれました。宇宙という頭が素粒子という尾を飲み込んでいる。広大な宇宙の果てを見ようと思って追いかけていくとそこには素粒子があり、いちばん小さなものを見つけようと追いかけていくと、そこには宇宙が口を開けて待っているというわけです(22頁参照)。宇宙とは、素粒子・物理学-原子核物理学-化学-生物学-地質学-天文学-宇宙論の連鎖の中で理解されるものなのです。

「宇宙は何でできているのだろうか」。学校では「万物は原子からできている」と習いますし、確かに地球以外の星も原子でできてはいます。しかし実は「原子以外のもの」が宇宙の約96%を占めている。それが分かったのは、2003年のことでした(44頁参照)。地球を含む太陽系自体も猛スピードで動いています。それも秒速220キロメートル。私たちは、宇宙という大海原を、1時間に約80万キロメートルの速さで進んでいるわけです。地球が太陽の重力で「落ちる」のと同様、太陽系も天の川銀河全体の重力に引っ張られ、銀河系から離れないようになっています。それだけのスピードで走る太陽系を捕えているのですから、その重力は大変なものです。ところが、天の川銀河全体の星やブラックホールなどの全てを集めても、太陽系を引き留めておけるほどの重力にはならないのです。そこに星以外の「何か」がないと、私たちは安心して太陽系に乗っていられません。では、何の重力が太陽系をここに引き留めているのか。それが、暗黒物質です(46頁参照)。宇宙エネルギーのうち暗黒物質が23%、暗黒エネルギーが73%を占めています(44頁参照)。アインシュタインの有名な「E=mc²」(エネルギー=質量×光速の2乗)という方程式によって物質の質量はエネルギーに換算できるので星の質量もエネルギーに換算して比較できます(43頁参照)。

古代ギリシャデモクリトスは万物の「素」となる粒子を「atomon」と呼びましたが、「原子(アトム)」は素粒子ではありませんでした。原子が究極の素粒子ではないことは、電子や原子核の発見で明らかになりました(87頁参照)。ラザフォードの実験等を経て、100種類以上もある原子が、実はすべて陽子、中性子、電子の3種類でできていることが分かったのです。電子については今のところ「これ以上は分割できない」と考えられていますが、さらに解像度を上げて調べたところ、陽子と中性子はもっとバラバラにできることがわかりました。それが「クォーク」という素粒子です。現時点では、クォークが「これ以上は分割できない素粒子」だと考えられています。ちなみにクォークは小説に出てくる鳥の鳴き声から名付けられました(89頁参照)。

素粒子に関しては、素粒子標準模型(93頁参照)に種類が記載されていて、その発見の過程が本文で詳細に紹介されています。フェルミオンクォークレプトンに分けられ、第1世代(アップ、ダウン、電子ニュートリノ、電子)、第2世代(チャーム、ストレンジ、ミューニュートリノミューオン)、第3世代(トップ、ボトム、タウニュートリノ、タウオン)に分類されます(92頁参照)。また、「パウリの排他原理」を基にフェルミオンとボソン(フォトングルーオン、Zボソン、Wボソン)に分けられます(100頁参照)。このボソンは、物質間で働く4つの力に関係しています(106頁参照)。

ニュートリノ」と名付けられた粒子が「存在するはずだ」と考えられたのは、ある現象が「エネルギー保存の法則」と矛盾するからでした。すべての物理現象は、その前後でエネルギーの総量が同じでなければなりません。ところが中性子の「ベータ崩壊」という現象では、その保存則が破れていました。ベータ崩壊の前後でエネルギーが異なっていました。崩壊前に中性子が持っていたエネルギーより、崩壊後のエネルギーの方が小さいのです。これはいわば、割れた茶碗の破片をすべて集めて秤に載せたら、割れる前よりも重さが減っていたようなものです。保存則が正しいとすれば、何か未知の存在がエネルギーを持ち去っているとしか考えられません。1950年代に実験室で粒子=ニュートリノの存在が確認されたのです(35頁参照)。

暗黒物質の発見やニュートリノの発見は、既存の法則とのズレ、差異から気づいたものでした。このズレや差異を単なるノイズとして無視するのか、ズレや差異の原因は何なのだろうかと追究するのかによって発見の可否が決まるのだなと感じました。このズレや差異を疑問に思う感覚が科学者には大切だということが分かりました。

「宇宙を動かす仕組みとは」。物質間で働く4つの力の表(107頁参照)に纏めて紹介しています。重力、電磁気力、強い力、弱い力の4つがあり、重力はグラビトン、電磁気力はフォトン、弱い力はWボソン、Zボソン、強い力はグルーオン、それぞれに伝達粒子が関係しています(106頁参照)。詳細に関しては、本文で分かりやすく、面白く説明してくれています。そして、これらの法則や事象をひとつの理論で纏められるような大統一理論の創造を模索しています(109頁参照)。

村山斉著の『宇宙は何でできているのか』という書籍において興味深い記述を挙げます。まず、物質と反物質の「対称性の破れ」によって、物質が存在し、現在の物質社会が存続している話(208頁参照)。以前、読破したE・ヤンツ著の『自己組織化する宇宙』という書籍にも頻繁に「対称性の破れ」という言葉が記載されていました。(芹沢高志・内田美穂共訳・エリッヒ・ヤンツ著『自己組織化する宇宙』 361頁他参照)。次に、素粒子を「点」ではなく1次元の広がりを持つ「ひも」だと考える「超ひも理論」の紹介(198頁参照)。以前、読破したスティーヴン・ホーキング著の『ホーキング、未来を語る』という書籍にも「超ひも理論」が記載されていました(スティーヴン・ホーキング著『ホーキング、未来を語る』 75頁参照)。アインシュタインが「光はエネルギーを持つ粒子の集まりだ」と考えることで、「光電効果」という現象の謎解きをした話(77頁参照)。以前、読破した山田克哉著の『アインシュタインの発見』という書籍でも「光電効果」を説明していました(山田克哉著『アインシュタインの発見』 112頁参照)。ボトムクォークダウンクォークに崩壊するプロセスは3通りあります。その崩壊の強さを“複素数”(長さと角度を持った数)で表すと三角形になり、物質と反物質では、その複素数の角度が反対向きになるという記述(184頁参照)。素粒子物理学虚数が活用されているのだなと感じました。コンピュータ・シミュレーションによる宇宙の構造を再現した話(195頁参照)。この記述を読んで、生命誕生を再現するため、原始大気を水素・メタン・アンモニア一酸化炭素二酸化炭素などでつくり、化学反応のエネルギー源として紫外線照射や放電を起こした。そして、実験でできた溶液の中に、生命に不可欠な有機物を多数確認したミラーの実験を想起しました。加えて、ガリレオの「宇宙という書物は数学の言葉で書かれている(14頁参照)」やアインシュタインの「神様はサイコロ賭博をしない(129頁参照)」という物理界では有名な言葉も紹介されていて物理の世界の理解を深めるものだと感じました。

村山斉著の『宇宙は何でできているのか』という書籍では、天の川銀河全体が隣のアンドロメダ銀河と45億年後に衝突するか(46頁参照)、太陽が地球を飲み込むほどの大きさまで膨張するか(86頁参照)、どちらが先か微妙だが、以上の理由により地球は滅亡すると予言しています。著者は、さらっと記載していますが、地球の滅亡は非常に重大な事件ですよね。かなり遠い未来の話とは言え、時間が過ぎるのは早いものです。必ず来るXデーならば、その日に備え、他の惑星への移住のための準備を始めなければならないと感じました。人口爆発による地球のキャパシティを超える問題等の解決を含め、惑星へ人類が移住できる技術の開発は必須のように思えます。

最後に、この村山斉著の『宇宙は何でできているのか』という書籍は非常に分かりやすく、面白い書籍でした。本書の印税はIPMU(東京大学数物連携宇宙研究機構)に寄付され、活動資金にあてられるとのこと(226頁参照)。この書籍は、図書館で借りたものではなく、私が購入したものなので、私も少しは宇宙研究に貢献できたことに喜びを感じております。この書籍がたくさん売れて、それが加速器、望遠鏡などの宇宙研究の資金になり、宇宙の謎の解明が進むことを望んでいます。